『闘竜戴天 1~5』〈時の車輪9〉 | 手当たり次第の本棚

『闘竜戴天 1~5』〈時の車輪9〉



この物語は、前提として、「世界の終焉が間近に迫っている」事になっている。
人類にとっての大敵は、闇王と呼ばれる存在で、三千年以上も封印されていたそやつの牢獄は、次々に封印が解けており、全界に闇王の影響が刻々と強まっている段階にあるわけだ。

従って、ともに封印されていた闇セダーイの活躍が活発になっているし、諸王国にはそれぞれ、闇セダーイが入り込んでいる状態。
(王国だけでなく、ショーンチャン帝国や白い塔も例外ではないし、黒い塔も、光の子も、ともかく権力やパワーと関係のあるところには闇の信徒が深く浸透している)。
なんと物語のこの部分では、エレインも、ランド・アル=ソアも、暗殺されかかる。
特に、ランド・アル=ソアの方は深刻で、ますます彼の人間不信を強めてしまう。

一方、エレインはアンドール王国に戻り、混迷している王国で、母の王位を無事に継承すべく、奮闘をする事になる。
アミルリン位としてめざましく成長を遂げていくエグウェーンにくらべると、エレインの歩みはもどかしいところもあるが、妊娠という女性の重荷をにないながら、王位継承者であり、かつ異能者(アエズ・セダーイであるという立場を上手に利用して立ち回る彼女の活躍も、目をはなせないものがある。

ところで、初読した時、このあたりでかなりげんなりしていたのは、主人公であるランド・アル=ソアがどんどん人間不信に陥り、とげとげしく、そして孤独に、冷酷になっていくのを見るのがしんどかったからかと思う。
その状況を改善するために、カドスアンやナイニーヴが活動するのdが、後に、ミンが、「結局はそのふたりも含め、誰もがランド・アル=ソアを思うがままに動かそう(ランド視点では、操ろうというところ)としているのが間違いだ」と看破するとおり、なかなかうまくはいかない。
いやもう、一人で何もかもやろうとして破綻するパターンそのままだ。

も・っ・と・ま・わ・り・を・た・よ・れ・よ!

と、読んでいても凄くやきもきするのだ。
だからこそ、余計に、助言を受けるところは受け入れ、自分の考えを通すところは通す、エグウェーンやエレインの活躍に共感を覚えてしまうのだろう。
特に、エレインの場合、妊娠しているという状態のため、周囲から制約されるところが実に人間らしく、ほほえましくもある。まわりは香料入りのワインを楽しんでいるのに、自分はお湯も同然の薄いお茶しか飲めない(蜂蜜も入っていない!)など。しかも、うまいこと、アビエンダがその「窮地」を救ってくれたり、ビルギッテが絆のためにお酒を制限せざるをえないなど、ほんとに、エグウェーンよりもさらにエレインのまわりは、読者にとって等身大のキャラクターに映る。

また、若者三人に目を向けると、やはり最も面白いのはマットで、ティリン女王との関係もさることながら、いよいよここで、予言の女性である、九つの月の姫君が登場する。
マットとの結婚を運命づけられている女性だというのに……マットが、ティリン女王のツバメであるところに登場するというのは、どうなのか。
これは、あまりにも、ヒドイ。
マット以外の男なら、もう逃げ出してしまうだろうと思えるのだけど、さすがマット。
そのシチュエーションを脱そうと苦闘しつつも、なぜか苦労を感じさせない。


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2004年4月~2004年8月