『竜騎争乱 1~5』〈時の車輪8〉 | 手当たり次第の本棚

『竜騎争乱 1~5』〈時の車輪8〉



かつてエモンズフィールドを出た若者たちは、全界にばらばらにちらばり、それぞれ冒険するのがこのあたりなのだが、同時に諸国は乱れに乱れ、もはや平穏な国を探す方が難しいほどだ。
ランド・アル=ソアは一方でショーンチャン人とぶつかりあい、もう一方ではイレイアンに攻め込んで、サマエルと対決する。

エグウェーンはタール・ヴァロンをめざし、エレインはいよいよシームリンに目を向け、他方白い塔やサリダールからランドのもとに赴いた異能者(アエズ・セダーイ)たちは思いもかけなかった立場に追い込まれる事になる。

しかし、こうしてみると時の車輪の全界は、なんとも女性の力が強い。
原点ともいえるエモンズフィールドでも、「男会」より「女会」の方が実質的に力があるようなのだが、女王の多さにも目を牽かれる。
アンドールは代々女王が支配する国だし、他に、サルダエアなど、女王がおさめる国が目白押し。
アサ・アン・ミエレも支配的な立場に立っているのが女性なら、遠くショーンチャン帝国も女帝に支配されているし、アイール人の間でも首長より賢者が幅をきかせ、言うまでもなく異能者は国家元首より強い権力をふるっていた(過去形になりつつあるとはいえ)。

別に、この物語はフェミニズム的ではないし、もちろん作者も女性ではないのに。
政治の世界に目を向けなくとも、文化的に女性が強い地域も多いようだ。
まあ、もちろん、男が遊んでくらしているのではないが、政治や交易は女の仕事になっている事が多く、そうでない国々でも、そのような仕事に、女性が男と同じくらい多く従事しているようだ。

いやいや、世界観だけではない!
物語を裏から彩る闇セダーイたちにしろ、どういうわけか、男より女の克也卯が目立つ気がする。
実際、アンドールを支配していたラヴィンも、イレイアンを支配しているサマエルも、いろいろ頑張って画策しているようでありながら、そしてランド・アル=ソアとのぶつかりあいは「戦闘として」激しいものでありながら、決着はかなりあっさりしているように見える。
ランフィアやモゲディーン、グラエンダルの方が、ずっとねちこく、露出も多い。
男の闇セダーイで同じくらい活躍するのは、闇セダーイの中ではどちらかというと下に見られているアズもディーンくらいではないだろうか。

だからこそ、ランド、ペリン、マットの三人が際立つという見方もできるだろう。
また、後半への折り返しがスタートしている物語のこのあたりから、マットの存在がどんどん大きくなってくる。
しかし、ランドやペリンと違って、決して戦士ではないマットの活躍は、とても癖があり、ある意味、エグウェーンやナイニーヴら、女性陣と同じくらい、面白い事になっていく。
そう、実は、主人公側も、男性陣の活躍は、女性陣に比べ、単純でいまひとつぱっとしないように見えるのだ。


竜騎争乱〈1〉嵐の来襲―「時の車輪」シリーズ第8部 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
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竜騎争乱〈4〉精鋭たちの召喚―「時の車輪」シリーズ第8部 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
竜騎争乱 (5) (ハヤカワ文庫 FT―時の車輪 (352))/ロバート・ジョーダン
2003年9月~2004年1月