『昇竜剣舞 1~7』〈〉時の車輪7 | 手当たり次第の本棚

『昇竜剣舞 1~7』〈〉時の車輪7





エモンズフィールドを出た5人の若者は、それぞれ重要な役割を果たすようになっていくわけだけれど、ある意味その中で最もユニークなのがマット・コーソンではないかと思う。

羊飼いのアル=ソア、鍛冶屋のペリンと違って、マットだけは、そういう呼ばれ方がない。
故郷では、父親の飼っている牛の乳搾りをした、とあるだけで、とくに(家業の)何を仕事にしていた、という経歴がないのだ。
むしろ、ことあるごとにいろいろな悪戯w3おしていたという事が自他共に記憶に残っているだけだ。

旅に出てからも、ランド・アル=ソアのように運命と闘う事もなければ、ペリンやエグウェーンのように、指導者たるべく努力していくということもなく、ナイニーヴのように激しく自分と戦うという面も持たない。

彼の稼業は、いってみれば、ギャンブルだ。
枯れについていくものも、最初は、彼のツキに引き寄せられたと語られている。
賭の結果、マットの人生は転がり続けていて、首にかけた絶対力をそらすメダルも、英雄蘇生(ヴァリーア)の角笛を吹いたことも、ルイディーンで古代の断片的な記憶のあつまりを手に入れたことも、全てはギャンブルの結果だと言っていい。

悪戯ずき、ちゃらんぽらん、ナンパ師、しかしナイニーヴにいわせると、一度約束した事は決して破らない、必ず守り通す男だという事だ。
マットには英雄としての重みや、苦しげな影はない。
いや、仮にあったとしても、笑い飛ばせる強さがある。
実に魅力的なキャラクターではないか。
自分自身も、人生も、笑って蹴飛ばせる男、マットは、本島にこの物語の中で希有なキャラクターだ。

その彼が、ランド・アル=ソアの依頼を受けてエレインやエグウェーンと接触し、非常な苦境に立つはめになる。
うち、ひとつはとんでもない女性とのラヴアフェアであり、もうひとつはエバウ・ダーに闇セダーイや闇の生き物が登場する事によって、マットや仲間自身が命を落とす瀬戸際に立つ事だ。
実際、何人かの仲間が命を落とす事になるが、その対処も受け止め方も、ランド・アル=ソアとマットでは真逆といっていい。

かつて、アイール人の恋人に、ランド・アル=ソアの影にいる、と評されたり、最後の戦い(ターモン・ガイ=ドン)で勝利の鍵を握ると予言されてたり、角笛を吹いたという(困った)事実があったり、マットの立ち位置はかなり微妙な者であり続けるのだが、そんな綱渡りができるのも、マットならではなのだろう。


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2002年12月~2003年6月