『竜魔大戦 1~8』〈時の車輪4〉 | 手当たり次第の本棚

『竜魔大戦 1~8』〈時の車輪4〉



物語の中心にいるのが若い男女である以上、当然、この物語も、キャラクターの成長物語という一面を無視する事はできない。
物語の序盤から中盤に移っていくこの部分は、まさしくキャラクターが故郷を出て自分の殻を破り、成長を始める部分だと言えるだろう。

最も大きな変化を強いられるのは、ランド・アル=ソアとエグウェーンの二人だと思う。
しかし、絶対力のソースが男性源と女性源に別れているごとく、二人の成長の即席は全く違うものだ。
ランド・アル=ソアは、竜王の再来として最も重い運命を背負わされている。
それに押しつぶされず、また、逃げることもなく、向き合っていくことが、彼の成長の動力源であって、それは、人間が本来逆らいえない「運命」と戦う、英雄本来の成長コースだ。
また、ど田舎の羊飼いが、広い世界に出て、多種多様な文化をまのあたりにし、それらと折り合いをつけていく(しかも自分の背負う運命によって、それらに変化を与えていく)なかで、ヒントを与えてくれる者こそたくさんいるとしても、手に取り足をとって教えてくれる者はない状態だ。
つまり、彼は自分がどのようにすべきなのか、常に、自分で考え、習得していかなくてはならない。
そのことが、自然と、力や風格をつけていくようになっている。

一方、エグウェーンが立ち向かう困難は、常に、同じ人間によって与えられるものに見える。
異能者(アエズ=セダーイ)への道を歩み出した事によって、白い塔での修練をはじめ、一歩債の状況もわからぬままアミルリン位によって、黒アジャ狩りに送り出されるだけでなく、白い塔では長きにわたり登場しなかった、夢見人の能力があることから、全く違う文化圏のアイール人賢者に教えを請う事になる。
この時期のエグウェーンは、非常にスパルタではあるが、ランド・アル=ソアと異なり、いわば手に取り足をとって教えを受けている状態だ。
運命のように漠然としたものではなく、具体的な「指導者」が存在する事で、まず、それを受け入れる事を学ぶのがエグウェーンのスタートラインとなっている。
そして、この経験を踏まえ、後には異能者のパワーゲームの駒にされつつ、自分の目的のために苦闘の道を自ら選ぶ事になるわけだ。
主人公たちの中で、最も、学ぶ機会を多く与えられている優等生がエグウェーンなのだ。

もちろん、かれらのまわりの準主人公たちもそれぞれ困難な道を歩むわけだけれど、仲間のなかにあって、調整者の役割を受け入れながら、将来の女王への道を歩みだしたエレイン王女や、自然とリーダーにまつりあげられていき、その責任を受け止めるペリンなど、ランド・アル=ソアやえぐうぇーんほど明快ではなくとも、それぞれ全く違うカラーがあるのは、とても面白い。
いささか気の毒ではあるが、一番損をしているのはナイニーヴだろう。
生来の短気と傲慢さという特徴もあるのだろうが、そもそも彼女は、最初からある程度絶対力を使う事ができるというアドヴァンテージがあるだけに(また、その潜在能力が非常に大きいとも言われているだけに)、えぐうぇーんとは全く逆に、学ぶチャンスが少なく、謙虚に学ぼうという意欲が小さいのだ。
このために、人間的な成長を始めるのは、身近な人間に限定しても、えぐうぇーんやエレインの方が先となってしまい、この時点では、反面教師的な、「悪い例」の見本になってしまっている。
実に、彼女が良い方にかわりはじめるのはかなり遅い。

さて、物語の背景に目を転じると、まず本筋にかかわる部分としては、闇セダーイがあからさまに表面に出て来ている事があげられるだろう。
セリーンがランフィアである事がはっきりするだけでなく、他数名の闇セダーイがどのような名前で、どの国で活躍しているかもわかってくる。

また、アイール人が前面に出てくるだけでなく、ランド・アル=ソアがルイディーンにおもむく事によって、アイール人の歴史も開陳される。
もちろん、放浪の鋳かけ屋たちとの関わりも明らかになる。
アイール人がふたつに割れるのも、ここからだ。

舞台となるのは、ランド・アル=ソアとえぐうぇーん、そしてアビエンダやモイレインがいるアイール荒地はもちろん、ナイニーヴやエレインのいるタラボン国が目新しいところだが、ペリンとロイアル、ファイールがトゥリバーズで活躍するのも、興味深い。
ふつう、このタイプの物語の主人公は故郷を出てから、一度そこへ戻るという事がまずない。
しかし、ペリンは戻ってくるわけだ。
旅だった時とはまるで別人になっているペリンがトゥリバーズでどのように迎えられるか。
ペリンの成長の鍵は、まさしく、ここにある。


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2000年3月~2001年3月