『橋の上』〈居眠り磐音江戸双紙 帰還準備号〉 | 手当たり次第の本棚

『橋の上』〈居眠り磐音江戸双紙 帰還準備号〉


本シリーズにて、いよいよ主人公一行が本拠地である江戸へ帰還するにあたり、まzぅ「準備号」として出版されたのが本巻。
1冊の半分を、短編「橋の上」が占めるが、これは磐音が佐々木道場に入門したての頃のエピソードとなっている。

したがって、道場主健在であるのはもちろん、鐘四郎のような、後々も登場する先輩が出てくる一方、おそらくはこの短編のみのキャラクターであろうかという登場人物もいる。
磐音自身、若々しさをはしばしににじませている。

だが、こうして、本シリーズで関わりのある周辺のキャラクターをほとんど排した状態で見ると、坂崎磐音の優等生ぶりがかなり目立つように感じられる。
剣術の才能があり、かつ、藩の住職にある父のもとで、すでに藩政のため活動を開始する、若きエリートとしての磐音だ。
このまま、本シリーズ冒頭のような事にならず、ひとりの藩士として成長していったなら、どのような活躍をしたのか、少し興味がわくところだが、単なる優秀な藩士、父の跡継ぎという枠を超えなかっただろうことも感じられる。

まあ、そういう人物が思わぬ運命の変転によって、人生の冒険を重ねていくといのが本シリーズの根幹であり、だからこそ面白いのだけれど、巻数を重ね、登場人物もそれぞれ成長しているところなだけに、改めて主人公の人となりの、根幹の部分に気付かされる。

一方、シリーズの最初の展開につながる要素もあちこちにちりばめられているのが楽しい。
「なるほど、ここからこうつながっていったのだな」
という想像がふくらむからだ。


橋の上-居眠り磐音江戸双紙帰着準備号 (双葉文庫)/佐伯 泰英
2011年10月16日初版