『救出ミッション、始動!』〈海軍士官jクリス・ロングナイフ2〉 | 手当たり次第の本棚

『救出ミッション、始動!』〈海軍士官jクリス・ロングナイフ2〉


前巻で曾祖父が王位についたため、一転して、首相の娘+プリンセスになってしまったクリス!
プリンセスといっても、生まれながらのではないので、彼女自身とまどうことはいっぱいなのだが、何より面白いのが、彼女につくことになったメイドの存在だ。

地球出身だという彼女、アビーは、とことん謎の存在となっている。
先日出た最新刊にも引き続き登場するが、そこでも正体が明らかになっていない。
というよりもむしろ、「履歴書の通りでした」という調査結果しか出ていないのだが、「怪しいほどおかしな点がない」とも報告されているそうな。
アビーは何者なのか?
シリーズ最初の三部作で明らかになっていない点なので、もう気になって仕方がない。

何しろ、メイドとしてもすぐれているだけでなく、対諜報能力にも戦闘能力にもすぐれ、控えめなようでいて、実はぜんぜんそうでもない、なんと申しますか。
戦うメアリ・ポピンズのような女性なのだ!

本巻の面白さは、背景や筋立てもさることながら、まず目をひくのが、新米プリンセスとしてのクリスの板につかさなぶりと、このアビーのとりあわせだと思う。
また、彼女が加わったことで、三部作のメインキャラクターがそろうと言ってもいいだろう。

しかし、このように面白いキャラクター「だけ」では小説は面白くならない。
やはり、筋立てや世界構築は大切なことだ。
今回は、クリスの数少ない友人であるトミーが誘拐されたというところから事件が始まるが、当然、これも単なる誘拐ではない。
そもそも、営利誘拐なら狙われるような人物じゃないわけだし。

ここに、ロングナイフ家の宿敵ピーターウォルド家が勿論かかわってくるだけでなく、クリスの深刻なトラウマとなっている、幼い頃の弟の誘拐事件もかかわってくるのだ。
そのため、単なるふたつの家門の対決だけではなく、そこに、クリス個人の問題が強いかかわりをもつことになり、クリスが戦い、行動していく理由が強化されている。


救出ミッション、始動! (ハヤカワ文庫SF)/マイク シェパード
2011年8月15日初版