『失われた都 (下)』〈イサークの図書館1〉 | 手当たり次第の本棚

『失われた都 (下)』〈イサークの図書館1〉



女性というものは、最大の謎(ミステリイ)である、という言葉がある。
もちろん、これは、主に男の視点から語るものなのだが、これは「女性は子宮でものを考える」という言葉と、アル点で趣旨をひとつにしている。
子宮、つまり男にはない機能が女性の根本である、という考え方だ。
すなわち、この機能があるため、女性は自分の最優先的な行動は、子供を守るためのものとする。
行動だけでなく、思考も、同じである。
そのため、「論理」をこえたところで決断し、行動する可能性がある。
しかし、男には子宮というものがないため、このような突飛な行動は理解できない、というわけだ。

さて、本作でも、ふたりの女性(うち一人が、ジン)がミステリイを解く鍵としておかれている。
本作の中で繰り広げられる謀略は、ほぼ全て、男の手によるものなのだが、なぜかその鍵となるのが女性なのだ。
そして、このため、男が仕切っていると思われる謀略に、微妙なゆらぎが生じてしまい、物事が「運命的に」思わぬ方向へと転じていく。
なかなか、面白い構図であると思う。
まあ、この女性的部分というのが、すなわち「女性的な(神秘)力」であり、古代は「(女性の)智慧」とみなされたものに通じるのだから、男がかなうわけはないのだが。

一方、そのよおうな要素とかかわりのない部分もある。
それが、教皇ペトロヌスに関する部分だ。
策略によって一度は教皇の位をしりぞき、故郷で漁夫をしていた老人、聖書に語られる使徒ペテロもまた、漁夫をであったこと、中世の聖杯伝説で、パルシファルが現れるまで、聖杯を護持していた老王も同じ名を負っていた事を思うと、なかなか面白い。
そういう名を持つ「教皇」であるペトロヌスは、やむなく教皇として復位するのだが、彼がなんのために復位し、どのような結末を選んだかというのは、過酷でもあるし、おそらくシリーズの先につながる重要な要素でもあるのだろう。
実は、彼の決断も、ある重大な「喪失」にかかわるものであって、巨大な図書館の喪失と重ねられるべきものだからだ。
一軒、マイナスのようにみえる決断だが、実は、「再生のための喪失」である事をにおわせており、ここもまた面白いところ。


失われた都 (下) (イサークの図書館)/ケン・スコールズ
2011年9月25日初版