『失われた都 (上)』〈イサークの図書館1〉 | 手当たり次第の本棚

『失われた都 (上)』〈イサークの図書館1〉


本を読むのが好き、という人であるなら、やはり、図書館には格別の思い入れがあるだろう。
ペーパーバックスだの、文庫本だの、という廉価な本が巷にあふれるようになっていても、ハードカヴァーの本が並ぶ場所というのは、なにか格別の雰囲気があるようだ。

さて、世界で最も有名な図書館といえば、焼き滅ぼされたアレクサンドリアの大図書館ではないかと思うが、たとえどれほど昔の話だろうと、「図書館が焼かれた」というエピソードは、ショッキングではなかろうか。
これを異世界で再現したところから始まるのが本作。

この世界では、かつてロボットやコンピュータのようなものを使用する文明があった。
ところが、人為的な災害により、その文明は失われてしまい、はるか過去の者となってしまった。
災害が単独なのか、複数あったのかはまだよくわからないのだが、歴史に残されている最も近い災厄は、非常に強力で破壊的な呪文によって引き起こされたとされている。
これが、世界観の前提。

そして、物語の当代においては、それら過去の技術的・魔法的遺物を発掘し、人類がかつて・そして今持っている知識や技術情報の全てを、ひとつの宗教組織が巨大な図書館に集積していたというわけ。
まあ、宗教組織であって、支配者は「教皇」と呼ばれているのだけれども、信仰の話はほとんど出てこない。
まあ、ローマ教皇庁に似たものが、人類の知的遺産を一カ所に集めて管理していた、ということだ。
この図書館が、図書館のあった都ごと、いきなり滅ぼされてしまう!

何者がその破壊を引き起こしたのか?
なんのために?
知的遺産をどのよういして再サルベージするのか?

もちろん、自然災害で滅びたのではないから、そこには、人間の欲望が関与しており、暴力が用いられたという事であれば、それは戦争に発展する。
図書館を中心に据えながら、非常に複雑で何重にもかさなりあった謀略の物語なのだ。
ミステリではないが「誰がどのようにして何をした」が、次々どんでん返しのようにあらわれてきて、スリリングだし、面白い。


失われた都 (上) (イサークの図書館)/ケン・スコールズ
2012年9月25日初版