『防衛戦隊、出撃!』〈海軍士官クリス・ロングナイフ3〉 | 手当たり次第の本棚

『防衛戦隊、出撃!』〈海軍士官クリス・ロングナイフ3〉


本巻では、中盤から始まる戦闘シーンに、(ある目的で)延々とバグパイプにあわせて歌われる勇壮な歌が軍事ネットワーク上に流されるということになっている。
これは、主人公クリスの友人にして有能な同僚(というか、一応、部下か)が、アイルランドの文化を受け継ぐバックボーンを持っているというところに由来するのだが、本作以外にも、アメリカのミリタリーSFには、バグパイプで軍楽が演奏されるシーンが時折登場する。
まあ、アイルランド系移民は多いからね。(そして、アメリカはなのちっても、植民地からできた国なので、ある程度多くを占めるアイルランド系移民がもたらしたものが、代替として、「祖国愛」に結びつくのかもしれない)。

そう、この音楽は、複数の意味で効果的な役割を果たしている。
人は、誰も戦争など心から望んでいたりはしない。
ならば、どういう時に人はみずから銃を取るのか?
それは、何かを切実に守りたい時。
まず第一に、自分の家族、そして愛するもの。
それを広い意味にとった時、「国を守る」ことにつながる。
アメリカのミリタリーものは、だいたい、この考えをベースにしているかと思う。

本巻は、まさしくそういう考え方が根底にある。
なぜなら、クリスの所属するウォードヘヴンは、ロングナイフ家に敵対するピーターウォルド家と、彼らが支配するグリーンフェルド同盟の巧みな政治的罠により、本拠地そのものにナイフをつきつけられる事になるからだ。
単に、軍艦が攻め込んでくるというのではない。
政治的な陥穽によって主星がほとんどまるはだかにされるだけでなく、クリスもまた、卑劣な政治的罠にかけられ、窮地に追い込まれてしまう、そこへ敵が来る、というわけ。

そういう死地にあって、彼女と仲間たちが、どのように故郷を守り抜くか、勿論、圧倒的な劣勢で立ち向かわざるをえないのだが、そういう燃える展開を助長するのが、冒頭に述べたバグパイプによる歌なのだ。
実在の歌なのかどうかは、残念ながらみつからなかったのだけれども、バグパイプによるミリタリーマーチの典型をひとつ貼っておく。

戦いそのものは、本島に壮絶だし、今までにおなじみになった人も、本巻ではじめて登場した人も、何人もが戦場で命を落とす事になる。
現在本国では9巻まで出ているというこのシリーズ、最初の3巻(つまり本巻まで)が、三部作的扱いなのだそうだ。
すなわちここで一区切りというわけで、窮地を脱して(敵を撃退するための)死地にのりこむところから、実際の宇宙戦まで、掛け値なしに凄い盛り上がりだ。
そして、この先もシリーズが続くため、完全なものではないが、最後は台風一過の空が見え、クリス自身にもどうやら新しい展開が待っていそうなラストになっている。


防衛戦隊、出陣!: 海軍士官クリス・ロングナイフ (ハヤカワ文庫SF)/マイク シェパード
2011年10月25日初版