『グランド・セントラル・アリーナ (下)』 | 手当たり次第の本棚

『グランド・セントラル・アリーナ (下)』


異星人。
それも、人間とは全く違う系統の、たとえば昆虫っぽい異星人がいるとする。
(まあ、なぜかアメリカの宇宙冒険ものに登場する異星人は、昆虫型または甲殻類型が圧倒的に多い気がする)。

ここで、進化した背景も違うし、生物としてのいろいろな違いがあるのだから、当然、彼らが発達させる文明などには人類と大きな違いが出るはずである、と考えるのは、ファースト・コンタクトテーマなどに見られるタイプ。
一方、「銀が連合」的な、多種類の異星人が組織する社会が存在する物語だと、ある程度の差異はあれ、基本的な欲望だの、考え方は、類似しているとみなす。
ほとんどのスペオペは後者のスタンスであり、本作もそこに位置している。
しかし、それでもkっちり、非人間的(?)なエキゾチシズムが漂うのは、アリーナにおける「党派」と、彼らが相争うやりかたが、面白いからだろう。
主人公の本業、レースパイロットとしての技量も発揮されるし、アクションもある。

このアクション、主人公グループのうち数名が、ヴァーチャルゲームのヴェテランで、そこで身につけた武術を使うというのだが、使う武器はナノマシンによって複製されたものなのだそうだ。
複製武器がどこまで精妙なのか、いくら全身を動かすプレイ方法とはいえ、ヴァーチャルでのみ修練(?)したプレイヤーに、実際の武器を使っての戦いができるのか、なんか疑問なのだが、まあいいか(笑)。
刀を柄っての「イアイヌキ」が作者はお気に入りの技であるもよう。
アクションはどちらかというと、きっと、ハリウッド風味だと思う。
ほとんど単調ではなく、いろいろと仕掛けも凝っているので、飽きずに読める。
ここらへんも、うまくエンタテイメントしているなあ。

しかし、並み居る異星人の中で、ちょい役なのに美味しい役回りなのは、レストランのオーナーかも。
危うくアリーナで村八分にされる(いや、ほとんどされた)主人公たちを、彼だけが堂々と迎え入れる。
彼女らがどんな厄介な相手に目をつけられようが、自分の店の料理は最高、たとえ誰だろうと、料理を楽しみたいなら自分の店に来るしかないし、それにいちゃもんをつける奴は自分が追い出してやる、と自信満々の主張をする。
いやあ、武闘派じゃないだけにこういうのはかっこいいよねえ。

また、この手のエンタテイメントでは、「憎めない敵役」が、「にくたらしい敵役」の中にひとり程度存在するのが重要だが、ちゃんとそういうキャラクターもいるところが、良い感じ。

さて、本作は一応単独の作品なのだが、アリーナの建設者についてとか、いろいろと解けていない謎が多いし、ちょっと厄介なものを背負い込んだ主人公の先行きも気になるし、逆に、かつてデュケーンがどのような活躍をしたのかも、知りたくなってくる。
そこらへんを描いた続編なり前日譚なりが、遠くない未来、日本でも読めるといいねえ。


グランド・セントラル・アリーナ (下) (ハヤカワ文庫SF)/ライク・E. スプアー
2011年7月15日初版