『グランド・セントラル・アリーナ (上)』 | 手当たり次第の本棚

『グランド・セントラル・アリーナ (上)』


最近のハヤカワ文庫SFで出るエンタテイメント性の高い作品は、ミリタリーSFの比率がだいぶ高まってる気がするんだけど(まあ、もともと高いという説もあるが)、これは文句なしにスペースオペラなのだ。
それもそのはず、本作品はドク・スミスへのオマージュとなっている。
しかも、具体的な作品はといえば、誰もがまっさきに想像する〈レンズマン〉ではない。
もうひとつのシリーズ、〈スカイラーク〉……!

さて、この両シリーズ、日本ではどちらも創元推理文庫SF(現在の創元SF文庫)から出されたのだが、レンズマンが絶大な人気を誇り、アニメ化までされ、本も手に入りやすい状態が続いているのに比べ、スカイラークは早い内から入手しづらくなり、今では古本にも「え」というようなプレミアがついている。
もちろん、レンズマンも面白いのだが、スカイラークはね。
スケールが違った。
一例をあげると、「惑星と同じ大きさの宇宙船」が出てくるんだぞ。
そして、シリーズを通じての人気敵役が、デュケーヌ(デュケーン)博士。
レンズマンがある意味群像小説であったのに対して、こちらは、スカイラークとデュケーヌの一騎打ち状態であるだけに、敵役も存在感がでかい。

この作品は、物語の中の歴史上(さかのぼること数十年前)、「架空のいろいろな人物をテンプレートに使った超人を作り出して一種の仮想空間に送り込む」というとんでもないプロジェクトがあり、上記のシリーズに登場する人物などが、その計画の中から登場してきたりする。

それだけではなく、ドク・スミスばりのスケールのでかさも受け継いでいる。
まあもちろん、レンズマンだのスカイラークだのが誕生した当時のパルプマガジンでは、たいていのスペオペに、多種族の異星人が登場するのは普通だったし、太陽系を舞台としたものが主流だったとはいえ、広く銀河をかけるもの、異星人種族らが作る星間社会が何千年何万年も続いているというような状況も、かなりあたりまえのものだったようだ。
それゆえ、ここにも、多種多様な異星人が登場し、かれらは万年の単位でとある施設上でのコミュニケーションを続けており、主人公たちは、いきなり、その渦中に放り込まれて、次々に危機的状況をクリアしていかなくてはならなくなるのだ。

これは、面白くならないわけがない。

なお、スカイラークやレンズマンに登場する小ネタがちりばめられているだけでなく、訳者のあとがきによると、おたくである作者は、日本のアニメやドラマなどなどからも、「えっ」なものをたくさん小ネタとして取り入れているらしい。
アナグラムで使用しているものもいっぱいあるらしいが、こればかりは、カタカナ表記されるとわからないのが残念(まあ仕方ないけどね)。
そういや、ヒロインである女性パイロットの髪の毛が青いなんてのも、日本の人気スペオペのヒロインを思い出させるよね。


グランド・セントラル・アリーナ (上) (ハヤカワ文庫SF)/ライク・E. スプアー
2011年7月15日初版