『人形町夕暮殺人事件』〈耳袋秘帖9〉(だいわ文庫版) | 手当たり次第の本棚

『人形町夕暮殺人事件』〈耳袋秘帖9〉(だいわ文庫版)


人形っていうのは、怖い。
太古の昔から、神事や呪術に使われてきた(たとえていうなら、仏像だって人形の一種だ)。
なんでかというと、それは人間に似ているように作られているからで、しかし作り物であるから本来は「たましい」がない。
入れ物だけあってたましいがないということは、たましいに類する何かが入り込むかもしれないし、または、入っているかもしれない。
だから、怖いわけなのだ。

さて、人形町という地名、人形師が住んでいたからかと思えば、なにやらあやしい伝説が秘められているらしい。
地中に埋まっている巨大な「ひとがた」。
ラスト、都市伝説めいたものにも作者がふれていて、今後、地下鉄などでそのあたりを通る時は、ちょっとぞわ~んとしそうだ。

まあ、そういう、いわくつきの土地で、人形を使った一種の見立て殺人が連続して発生するというのが本巻。
それも、三すくみになっている。
つまり、死体がそれぞれ、小さな「ひとがた」を持っている。
ひとがたには赤いしるしがあって、それぞれ、別の死体の殺され方を示しているわけだ。
これだけでも結構猟奇的だが、さて。
三すくみ、つまり死体が三つあり、それぞれの殺され方を示したひとがたを持っているとなると、そりゃ「不可能」になっちゃうよね。
いったいどうすれば、三すくみは成立するのか?

描かれる三角形の一点が毒殺なので、そこに鍵がありそうなのだが、仕掛けはけっこう、複雑になっている。

おどろおどろしさと、ミステリと、うまい具合に混ざり合っていて、本巻はなかなか面白い。
しかも、かなり人形づくしをめざしているなか、思いもかけぬ「人形」が関わるのもミステリとして良いところ。



耳袋秘帖 人形町夕暮殺人事件 (だいわ文庫)/風野 真知雄
2008年11月15日初版