『麻布暗闇坂殺人事件』〈耳袋秘帖8〉(だいわ文庫版) | 手当たり次第の本棚

『麻布暗闇坂殺人事件』〈耳袋秘帖8〉(だいわ文庫版)


日本列島ってだいたい山が多いんだから、大陸のように「地平線が見えます」な事はないわけだが、それにしても、江戸は坂が多い町であるらしい。
関東平野という名前はついていても、丘陵もあれば、台地もあって、細かな高低差がかなりある。
東京の地図を広げてみても、なんとか坂という地名はかなり多い。
しかし、なかでも麻布の坂の多さははんぱじゃないのだ、と語られる。
ううん、そうだったけ?
麻布界隈はあんまり歩いた事がないのでピンとはこないのだが、確かにこの物語の中では、麻布は坂だらけ。
平らな道というのがほとんどなさそうだ。

人生を坂道にたとえて有名なのは徳川家康だけれど、ここでも坂にたとえた人生観が登場する。
しかも、それがかなり生々しく、事件にも影響してくるところは面白い。
そして、意外な盲点にも気付かされる。
たしかに、「坂」というと、まず、登るところをイメージしがちだと思うのだが、登りがあれば当然下りもあるわけで。
つまり、「坂」には、
下から見上げる ・ 登る ・ 上から見下ろす ・ 下る
という4つの属性があるわけなんだよね。

この属性を全て余すところなく使ったのが本巻の物語なのだ。

しかも、登るにしろ下るにしろ、良いところもあれば悪いところというか、危険なところもある。
坂の上り下りは健康に良いが、体力があって簡単に上り下りできるからといってなめてかかると大変だよ、なんていう見方もあるようだ。
ちょっとばかり、人生の「ペーソス」というやつを感じさせる本巻。
随所に登場する幽霊の噂も、効果的で、読後感もなかなかだ。


耳袋秘帖 麻布暗闇坂殺人事件 (だいわ文庫)/風野 真知雄
2008年2月15日初版