『両国大相撲殺人事件』〈耳袋秘帖6〉(だいわ文庫版) | 手当たり次第の本棚

『両国大相撲殺人事件』〈耳袋秘帖6〉(だいわ文庫版)


今はいろいろと不祥事などがあって、大相撲人気が落ちているというけれども、江戸時代は五本の指に入る娯楽だった。
まあ、そうなのだが、その理由が作中述べられているのが面白い。
松平定信の奢侈禁止令により、芝居もダメだしあれもこれもダメといったなか、大相撲はOKだった。
そこにもってきて、強い人気力士が次々に出た。
だからだ、というんだな。
なるほど~。
ここに登場する雷電為右衛門も、連接の力士といっていい相撲取りだ。

今は企業がスポンサーになったり、国が助成金を出したりというスポーツや藝術の世界であるけれども、近世まではどこの国でも、こういったものにはパトロンが存在し、活動を助けていたわけだ。
日本の大相撲も例外ではなく、雷電のような関取にも、パトロンがいたわけなんだね。
そうすると、千代田のお城では、いろいろな事で張り合う間柄もあったりするため、庇護される方のギョーカイも面倒な事になっちゃうんだね。

まあ、根岸肥前の時代は松平定信の改革あとの事、支配階級の台所事情がとっても苦しい時代でもある。
リストラされた遠国の武士たちの悲哀も今回の事件に絡んでくるが、これまた、お家騒動とかかわってしまった不運な人々で、全体に、やるせなさといったものが濃厚だ。

そのなかで、諸侯の鞘手というくだらなさ(そしてそれに振り回される人々の悲哀)をはらすかのように、根岸が愛玩犬を使った悪戯をするエピソードでしめるのが、よきかな。
やるせないままだと、読後感がちとつらいし。


耳袋秘帖 両国大相撲殺人事件 (だいわ文庫)/風野 真知雄
2007年11月15日初版