『浅草妖刀殺人事件』〈耳袋秘帖3〉(だいわ文庫版) | 手当たり次第の本棚

『浅草妖刀殺人事件』〈耳袋秘帖3〉(だいわ文庫版)


妖刀村正にからむ事件。
などとぴうと、「鞘をはらえば血を見るまではおさめられぬ」といったシーンや、普通の侍だったのにいきなり気が狂ったかのように暴れ出すというのを想像してしまうのだが、なんせ、一見怪しげな噂の影に、事件があるという仕掛けの本シリーズであるから、そう簡単にはいかない。

村正に関する、そういった伝説を前提に、かつて、ある事件が発生した。
そう、あくまでも、まず、「かつて」なのだ。
そして、現代(物語の中の現代という意味ね)。
巧みかつ残酷な連続強盗殺人事件が発生する。
まず、根岸たちにとっては、これを解決するのが腕の見せ所というわけだ。

しかし、本巻の面白いところは、そこにもうひとつ別の要素がある事だ。
長年まじめにつとめていた男が、ふとしたことで、悪いカネに手をつけてしまう。
まあ、そこにも、よんどころのない事情があったわけだ。
しかし、いくら事情があったとはいえ、また、表沙汰にできないカネであったとはいえ、他人のものに手をつけてしまった男は、どういう気持ちになるものだろう。
また、その人生はどのように変わってしまうだろう。
本筋から派生する部分なのに、ここがとても面白い。

また、それら相互に関係する複数の事件に、結局は、村正(の伝説)が影を落としたかっこうになっているわけ。

さらに、今回は、それら一連の事件が、未来の事件につながることをにおわせるという複雑な構成になっていて、シリーズ3冊目にして、がっちりと読者をつかみ、脂がのった感じがする。


浅草妖刀殺人事件―耳袋秘帖 (だいわ文庫)/風野 真知雄
2007年4月15位置初版