『竜王伝説 1~5』〈時の車輪1〉 | 手当たり次第の本棚

『竜王伝説 1~5』〈時の車輪1〉





作者ロバート・ジョーダン亡きあと、最終部(そしてその翻訳)はどうなるのかと懸念された〈時の車輪〉シリーズだが、このたび無事に最終部の最初の部分が日本でも刊行された。

この際、最初から再読してみようかとひっぱりだしてみたところ、日本に紹介されたのは、97年だったのか、と改めて思いをはせる事になってしまった。
つまり、すでに第1巻が日本に来て、14年がたってりうという事だ。
うう~ん、振り返ってみれば、その頃はまだブログなどもなく、書評を自分の書籍情報サイトに掲載してたなあ。
しかし、画像でもわかるとおり、原書の1巻が5分冊で毎月出されるという販売体制で、一見これは途切れなく読めるようだが、コアな読書家にとっては、細切れにされたストレスが蓄積するものでもあった。
実際、最新刊が上下巻で同時に出され、それを読んだ時に再認識したのだが、この物語は、なるべく、ぶっ通しで読みたい物語なのだ。
また、そうしないと感じ取れない部分などもある。

さて、巻数を重ねたシリーズを再読する時は、「いまこうなっているキャラが、最初はこんなだった!」と、ワケシリ顔で見る楽しみもあれば、逆に、「むむ、実はこんなところに既に伏線があったのか~」と再発見する喜びもある。
このあたりは、どのキャラに注目しているか、ストーリーのどういう部分が好みかによってもわかれてくると思うが、なにより、一気に再読して改めて感じたのは、この物語、冒頭に関しては、思ったより、『指輪物語』の影響がでかいな、という点だった。
もちろん、ジョーダンが意図的に似せたのだとは全く思っていない。
しかし、魔法の使い手によって複数の田舎の若者が冒険の旅に出るはめになること、
世界の果て、太古の魔物的存在が封じられている土地をめざすこと、またその手先に最初からつけ狙われていること、旅の比較的初期に、かつては隆盛し、いまは邪悪な闇に支配されている(しかし敵の直接の支配地とはいえない)を通過せざるをえないことなどが、共通している。

そして、この微妙な、そしておそらく意図的ではない類似が、独自の異世界を創り上げている〈時の車輪〉シリーズに、読者が教官をえやすかった理由のひとつではないかとも思う。
『指輪物語』でなじんだモチーフが、全く違う姿で、しかしそれとなく使われているため、不思議となじみやすい異世界であり、かつ、新奇の、魅力的な世界と感じられたのではなかろうか。
たとえば、トロロークなどは、みるからに、「トロル+オーク」っぽい怪物だが、それらを支配するミルドラルは、『指輪物語』の黒の乗り手と似ているようで、全く別の、凄く不気味な(グロテスクな魅力のある)怪物だ。
そもそも、闇に溶けるミルドラルという呼び名が魅惑的。
指輪の幽鬼よりも現実的な肉体をそなえているようなのに、同じくらい超自然的な部分もあるのだ。

一方、踊る子馬亭のバタバーを彷彿とさせる宿屋の亭主が何人も出てくるが、ただひとり、悪いやつは、やせ細った、違うタイプの男だというのも、ある意味露骨で、読者としては面白い。

もちろん、このような類似のモチーフは、次巻からどんどん少なくなっていき、どこからどこまで、〈時の車輪〉は〈時の車輪〉なのだ、というオリジナリティがふくらんでいくのだけれど、この第1巻(翻訳では第1部)に限り、こういった相似がうまく含まれているのだと思う。


竜王伝説〈1〉妖獣あらわる!―時の車輪 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
竜王伝説〈2〉魔の城塞都市―時の車輪 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
竜王伝説〈3〉金の瞳の狼―「時の車輪」シリーズ (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
竜王伝説〈4〉闇の追撃―時の車輪 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
竜王伝説〈5〉竜王めざめる!―時の車輪 (ハヤカワ文庫FT)/ロバート ジョーダン
1997年11月~1998年3月