『楊令伝 三 盤紆の章』 | 手当たり次第の本棚

『楊令伝 三 盤紆の章』


中国、とひとくちに言っても、国号は順次変わってきている。
そして、隋以降がだいたい、今の国土の規模になっているとおおざっぱに言っていいのだろうと思われる。
もちろん、国境線はいろいろと移動しているだろう。
本巻の巻頭に付されている地図を見ても、だいたい、遼と金の一部が今の中国に含まれているようだし。
しかし、広いのだ。
ほんとうに広い。
津運設備といえば、烽火と宿駅くらいしかなかった時代である事を考えると、よくぞまがりなりにもひとつの国として機能していたものだな、と感心する。

そこを前提とすると、宋(青蓮寺)の、方臘の、呉用の、楊令の、視野の広さに舌を巻く。
広い国の南北それぞれ端っこにいながら、反対側の端を見据えて戦略を立てるなんて、よくできるよなあと。
今みたいに、いろいろな通信設備や衛星が利用できる状況とは全く違うのだ。

さて、いくつかの勢力のうち、もっともユニークで読みにくく、不気味なのはやはり方臘の宗教王国(未満)だろう。
「喫菜事魔」といって、菜食し、魔を祀る。
「度人」といって、人をこの世の苦しみから開放するために殺してやる。
うわ~。
度人というのは耳慣れない言葉だけれども、仏教用語で「度する」が「人を救う」という意味であるそうな(むしろ、「度しがたい」という使い方の方が一般的か)。
情景描写といい、かつて東京の地下鉄にテロをしかけた宗教集団を連想させるのだが、方臘というのが、決して船舶ではない、むしろ異様なほど奥の深い人物として描かれていて、大変興味深い。
はたして、その新編に潜入している呉用は、いろんな意味で無事にすむのか?
梁山泊の救出の手は及ぶのか?
非常に先の展開が気になる。

一方、方臘の乱が起こっている南部に比べ、北部は、宋と遼と金が梁山泊を加えて複雑な戦争外交を行っている。
どことどこが手を結び、実際には何をしようとしているのか?
各国各勢力の思惑が入り乱れて、こちらは戦略シミュレーション的な面白味もある。

そしてようやく、楊令が梁山泊の残存勢力と合流し、ようやく話が本格的に動き出しそうなところで、次の巻へ。


楊令伝 3 盤紆の章 (集英社文庫)/北方 謙三
2011年8月25日初版