『神楽坂迷い道殺人事件』〈耳囊秘帖10〉(だいわ文庫版) | 手当たり次第の本棚

『神楽坂迷い道殺人事件』〈耳囊秘帖10〉(だいわ文庫版)


江戸(そして今の東京)には、ほんとに坂が多い、というのは前巻でも触れられた。
今回も坂が舞台だが、神楽坂。
若者に人気なのかは知らない。
行きたいとか行ったとかいう話はあんまり聞かないから、雑誌が演出してるだけなんじゃないのという気もするが、今でもあのあたり、いきなり行くと、目的地を探すのがちょっと大変。
迷いやすいように思う。

さて、その迷いやすい神楽坂で、商売を盛り上げるため七福神巡りがこの界隈でできますよ、しかも判子を集めれば割引になりますなどという、なんか「江戸時代にそんなことしてたのかよ」な企画がある、というのが前段。
七福神自体は江戸時代おおいにもてはやされたそうだし、今と違って娯楽の少ない江戸時代のこと、寺社参詣はりっぱな「あそび」のひとつで、そのさいにも「七福神巡り」なんてのはけっこう人気があったらしい。
といっても、実際に、七福神をめぐるのはけっこう大変だから、同じ神楽坂界隈のみですぐまわれちゃうよ、というのがほんとにあったら、お手軽で喜ばれたかもしれない。

しかし、表向きは「商店会の街おこし」的なこのくわだてには、ちゃんと裏があって、それが事件につながっているという仕掛けなのだ。
筋立てとしてはまあ面白いが、正直なところ、前巻に比べると、ちょっと落ちるかなあ、と思う。

ともあれ、だいわ文庫版はこれが最終にあたり、続きとなる文春文庫版では根岸の手足となる同心が、栗田から別のキャラクターにバトンタッチするため、シリーズはここで一区切り、心機一転と言えるだろう。
だが、文春文庫版で活躍するユニークなキャラクターのひとり、女下っ引きのしめなどは、このあたりから活躍し始める。。
文春文庫から読み始めた場合も、チャンスがあればだいわ文庫版は読んでおいて損はない。


耳袋秘帖 神楽坂迷い道殺人事件 (だいわ文庫)/風野 真知雄
2009年11月15日初版