『谷中黒猫殺人事件』〈耳袋秘帖5〉(だいわ文庫版) | 手当たり次第の本棚

『谷中黒猫殺人事件』〈耳袋秘帖5〉(だいわ文庫版)


黒猫というと、「不吉~」というイメージがあるようだが、本来、これはヨーロッパでの事だという。
魔女の使い魔とみなされる事が多く、イタリアではとくに黒猫が迫害されたなどという話もある。
ところが、日本では元来黒猫が幸運を招くとされていたようで、水夫に好まれたり、招き猫でも黒いのがあったりする。
化け猫騒動のお玉は黒いじゃないかという意見もありそうだが、あれとて、実は主人を殺された猫が敵討ちした話、と考えれば、立派な黒猫ではないか。

本シリーズの主人公、根岸肥前が飼っている愛猫のお錫も黒猫であるけれど、今回は、25匹もいる猫のほとんどが黒! 家中にある置物の猫も黒! という、すごい猫屋敷が登場する。
……凄いだろうなあ。
だいたい、真っ黒な猫というのはそうはいない。
野生の猫は、虎とか豹がそうであるように、模様入りであるものだ。
つまり、しましまとか斑点がついてるのだ。

では、なにゆえこの猫屋敷の猫は黒いのか?
前当主が黒猫好きで、飼い猫も黒いのが生まれるようにかけあわせて、などという話が出てくるが、猫、それも黒い猫が持つ不思議な力というようなものにつつまれ、実はとても悲惨な過去の、そして今につながる殺人事件が主題となる。

そもそもが猫屋敷のため、「あそこの猫がたくさんいすぎて困りますっ」という近所からの苦情などもからんでくるが、主題の殺人事件も、こういった近所の苦情も、いろいろt裏があり、面白い仕立てになっている。

根岸肥前は非常な生き物好きとして描かれているのだけれど、この「猫がいすぎて……」という苦情の解決方法も、ちょっとほほえましい部分がある。
まあ、根岸でなくとも、「あんなに猫がいると邪魔だから始末を」なんて意見はちょっとねえ。
うちも猫を飼える環境であれば、ペットショップではなく、保健所で殺処分待ちの猫に手をのばすところなんだけどな。


耳袋秘帖 谷中黒猫殺人事件 (だいわ文庫)/風野 真知雄
2007年8月15日初版